Ref. #身体知 #身体性 #AI時代 #ソマティックマーカー #狩猟採集

本日の問い
AIは世界中のレシピを知っていますが、「今夜何が食べたいか」だけは答えられません。「〜したい」という意志は、計算ではなく身体からしか生まれないからです。
こんな方へ
- 「これからAIに仕事を奪われるのではないか」と不安を感じている方。
- 「やりたいこと」や「好きなこと」がわからず、自分には趣味がないと感じている方。
この記事の結論
- かつて狩猟採集民にとっての「知性」とは、身体の五感を使って獲物や天候の微細な変化(Why)を感じ取る「身体的センサー」そのものであった。
- 農耕・工業化社会(Howの時代)に入り、効率化が進む中で、身体はセンサーから「作業する道具」へと格下げされ、私たちは身体の声を聴く能力を失った。
- AIが完璧な答えを出してくれる今、人間には「Wants(意志)」が求められるが、その意志は脳の計算ではなく、身体の実感からしか湧いてこない。
「How」の飽和と、「Why」の欠落
「これからは、AIが答えを出してくれる時代だ」と言われます。 最短ルートの行き方、効率的な仕事の進め方、それらしい文章の書き方。 これら「どうやるか(How-to)」の領域において、人間はもはやAIにかないません。
そこで重要になると言われているのが、「なぜやるのか(Why)」「何をしたいのか(Wants)」という、問いを立てる力です。
しかし、多くの現代人がここで立ち尽くしてしまいます。 「君はどうしたい?」と聞かれても、答えが出てこない。 なぜなら、私たちは長い歴史の中で、問いを生み出すための器官である「身体」を黙らせてきてしまったからです。
狩猟民の身体は「違和感」が問いだった
人類史のクロニクル(年代記)を巻き戻してみましょう。 かつて狩猟採集をしていた頃、私たちの祖先にとって「知性」とは、ロジックではありませんでした。
「なぜ鳥が鳴き止んだのか?」 「なぜ風の匂いが変わったのか?」
これらは、頭で考えた疑問ではなく、肌の温度や鼓膜の振動といった「五感(身体)が拾った違和感」でした。 生きるための切実な「問い」は、常に身体というレーダーが世界と接触した瞬間の「ゆらぎ」から生まれていたのです。 ここでは、身体知こそが生き残るための全てでした。
文明化の身体:「センサー」から「道具」へ
しかし、農耕が始まり、産業革命を経て、現代に至る過程で、身体の役割は激変しました。 社会が必要としたのは、「風を読む身体」ではなく、「マニュアル通りに動く身体」です。
工場で、オフィスで、決められた「How(やり方)」を効率よく実行するために、身体はノイズ(空腹、眠気、気まぐれ)を発しない「従順な道具」であることが求められました。
私たちは教育や労働を通じて、「身体の声を無視し、脳の指令に従うこと」を徹底的に訓練されてきました。 その結果、私たちは「効率的な解き方」は得意になっても、「自分が何を感じているか」を感じ取るセンサーの電源を切ってしまったのです。
「Wants」は、お腹の底から湧いてくる
そして今、AI時代が到来し、再び「問い(Wants)」が求められています。
脳科学には「ソマティック・マーカー仮説(ダマシオ)」という有名な理論があります。 人間が何かを決断したり、「これが好きだ(Wants)」と感じたりするとき、脳は単独で計算しているわけではありません。
内臓の感覚、筋肉の緊張、心拍の変化といった「身体からのフィードバック」を感情のシグナルとして受け取り、それを判断材料にしています。
つまり、「これをやりたい!」という強い動機は、頭の中で捏ね上げた理屈ではなく、文字通り「腹の底から湧く」「胸が躍る」「腑に落ちる」といった身体感覚が起点になっているのです。
身体との距離が遠くなっている現代人が、「やりたいことがわからない」のは当然です。 Wantsを生み出すための「土壌(身体)」が乾いてしまっているからです。
身体を取り戻すことは、意志を取り戻すこと
AIは、膨大なデータを持っていますが、身体を持っていません。 だからAIは、「コーヒーが飲みたい」とも「夕焼けが綺麗で泣きたい」とも思いません。 「問い」や「欲望」は、不完全で、生身を持った身体の中にしか宿らないのです。
もしあなたが、AI時代に必要な「問いを立てる力」を養いたいと願うなら。 読むべきはビジネス書ではなく、あなた自身の身体です。
効率を追い求めるのをやめ、五感を開き、身体の中に生じる微細な「好き・嫌い・快・不快」のグラデーションを感じ取ること。 その「身体的な実感」との再接続こそが、借り物ではない、あなただけの「問い」を世界に投げかけるための唯一の方法なのです。
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