Ref. #胚葉学 #シェルドン #ソマトタイプ #科学哲学 #骨格診断

本日の問い
『なぜ、人間の体型は3つに分類されるのか?』 その源流にあるのが胚葉学とソマトタイプという考え方です。今回は、胚葉学とその限界について迫ります。
こんな方へ
- 巷の診断メソッドを鵜呑みにするのではなく、その根拠と信憑性を冷静に見極めたい方。
- 人体を「分類」することの面白さと、その危うさ(限界)の両面を知っておきたい方。
この記事の結論
- 骨格診断の理論的背景には、1940年代に心理学者ウィリアム・シェルドンが提唱した「ソマトタイプ(身体型)」と、その基礎となる生物学の「胚葉学」が存在する。
- ソマトタイプは、人を3つの枠に当てはめるのではなく、各要素の強さを「7段階評価」で数値化し、その配合比率で身体を理解しようとする試みだった。
- 現代医学において、この理論が性格や運命を決定するという科学的根拠は認められていない。あくまで「身体形状の傾向を知るための一つの指標(モノサシ)」として活用するのが誠実な態度である。
その「3タイプ」はどこから来たか
「ストレート」「ウェーブ」「ナチュラル」。 あるいは「リンゴ型」「洋ナシ型」「バナナ型」。
世の中には、人間の体型を3つ(あるいは数種類)に分類するメソッドが数多く存在します。 名前こそ違えど、これらは単なる思いつきで作られたものではありません。 多くの場合、ある一つの「共通の祖先(ルーツ)」を持っています。
それが、1940年代にアメリカの心理学者ウィリアム・シェルドン(William Sheldon)が体系化した「ソマトタイプ(Somatotypes)」という理論です。
そして、シェルドンがその理論の根拠としたのが、さらに根源的な生物学の事実、「胚葉学(Embryology)」でした。
今回は、具体的な「どのタイプがどういう形か」という話は脇に置き、「なぜ人類は、身体を分類しようとしたのか」という、理論の成り立ちそのものにスポットを当ててみましょう。
「胚葉」という生物学的・事実
まず、疑いようのない「事実」から始めます。 私たち人間を含め、多くの動物は、たった一つの受精卵から細胞分裂を繰り返し、身体を形成します。
この初期段階(胎児になる前)において、受精卵は明確に「3つの層」に分かれます。
- 外胚葉(Ectoderm): 皮膚や神経になる「外側」の層。
- 中胚葉(Mesoderm): 骨や筋肉になる「中間」の層。
- 内胚葉(Endoderm): 消化器などの内臓になる「内側」の層。
これは理論ではなく、生物学の教科書に載っている発生プロセスの事実です。
シェルドン博士はここに目をつけました。 「大人になった人間の体型の違いは、この『3つの層』のどれが優位に発達したかで説明できるのではないか?」と考えたのです。
骨や筋肉が発達した人は「中胚葉」の影響が強い。 華奢で神経系が発達した人は「外胚葉」の影響が強い。
これが、すべての体型分類の「源流」にある考え方です。
「ソマトタイプ」という試み
シェルドンは、何千人もの学生の写真を分析し、この胚葉学の名称をそのまま使って、人間を3つの「ソマトタイプ(身体型)」に分類しました。
- 外胚葉型(Ectomorph)
- 中胚葉型(Mesomorph)
- 内胚葉型(Endomorph)
しかし、ここで重要なのは、シェルドンは「人間は完全にこの3つに分かれる」とは言わなかったことです。
彼は、それぞれの要素を「1〜7のスコア(7段階評価)」で表しました。 例えば、「内胚葉要素が2、中胚葉要素が7、外胚葉要素が1」の人は【2-7-1】という風に、3つの数字の配列(配合比率)で個人を表そうとしたのです。
つまり、本来の理論は「あなたは〇〇タイプ!」とラベルを貼るものではなく、 「あなたの身体には、この要素がこれくらい、あの要素がこれくらい混ざっている」 という、グラデーションのある「配合の分析」だったのです。
昨今の骨格診断は、この複雑な理論を、一般向けにわかりやすく「3つの箱」に簡略化したもの(応用形)であると推測されます。
科学的な「誠実さ」について
では、この理論は科学的に「正しい」のでしょうか? ここで、現代の視点から誠実な見解を提示しておかなければなりません。
結論から言えば、「現代医学において、シェルドンの理論は、全面的には支持されていません」。
特に、彼が主張した「体型によって性格や犯罪傾向まで決まる」という説(構成心理学)は、データ収集の偏りや主観的なバイアスが含まれていたため、現代では否定されています。 「〇〇型の体型だから、性格は〇〇だ」と断定するのは、科学的根拠に乏しいと言わざるを得ません。
しかし、「体型の分類(Morphology)」としての価値がゼロになったわけではありません。 スポーツ科学や人類学の分野では、現在でも個人の体格を客観的に記述するための指標として、ソマトタイプの概念(ヒース・カーター法などに修正されたもの)が活用されています。
結論:分類は「定め」ではなく「傾向」の指標
骨格診断やソマトタイプといった分類法。 私たちはこれをどう受け止めるべきでしょうか。
それは、「あなたの運命を決める絶対的な真実」ではありません。 あくまで、あなたの身体が持つ「物理的な傾向」を知るための、一つの「モノサシ(指標)」です。
胚葉学という確かな事実はありますが、そこから先、どう育つかは環境次第です。 理論の根拠には、確かな部分と、不確かな部分が混ざり合っています。
だからこそ、 「私はこのタイプだからこうなんだ」と盲信するのではなく、 「なるほど、私の身体にはこういう発生学的な傾向(ルーツ)があるのかもしれないな」と、自分の身体を理解するヒントとして、知的かつ軽やかに活用する。
それこそが、情報過多な現代において、これらの理論と付き合う最も賢いスタンスではないでしょうか。
■ TK Library:知識を「広げる」×「深める」あわせて読みたい記事
この記事を起点に、視点を「広げる」記事と、理解を「深める」記事を選びました。 知識の点と点を繋ぐことで、身体への解像度をさらに高めてみてください。










