Ref. #食事誘発性熱産生 #DIT #平滑筋 #内臓疲労 #超加工食品

本日の問い
座って食べているだけなのに、なぜ身体は熱くなるのか? その正体は、内臓による『激しい運動』です。
こんな方へ
- 食後に強い眠気や、胃の重さを感じる方。
- 「食べていないのに太る(代謝が悪い)」と感じている方。
- 早食い、または加工食品で食事を済ませることが多い方。
この記事の結論
- 食事は単なる燃料補給ではなく、消化管という筋肉を総動員する、極めてエネルギー消費の高い「物理的運動(DIT)」である。
- 現代人の「咀嚼不足」「頻繁な食事」「超加工食品」という習慣は、内臓の筋肉を酷使し、「内臓疲労」による代謝低下を招いている。
私たちは普段、食事を「減ったガソリンを補充する」ような、静的な作業だと思っています。 口に入れて飲み込めば、あとは勝手に栄養になる、と。
しかし、身体の内側で起きている現象は、それほど単純なものではありません。
食事とは、胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓といった臓器を一斉に稼働させる、身体にとっての「大プロジェクト」です。 それは、私たちが想像する以上に、物理的なエネルギーを消費する活動なのです。
今回は、「内臓という筋肉」に焦点を当て、代謝の事実について解説します。
食べるだけで、体温は上がる
食事をした後、身体がポカポカと温かくなるのを感じたことはありませんか? これは「食事誘発性熱産生(DIT:Diet Induced Thermogenesis)」と呼ばれる生理現象です。
身体に入ってきた食べ物は、そのままでは使えません。 消化酵素を大量に作り、分子レベルまで分解し、腸壁から吸収し、肝臓で代謝する。 この一連の化学反応と物理運動には、多くのエネルギーが使われます。
その消費量は、1日の総消費カロリーの約10%にも及びます。
もし1日2000kcal食べる人なら、約200kcal。 これは、早足で1時間歩いた時の消費カロリーに匹敵します。
つまり、私たちは「ただ座って食べているだけで、1時間のウォーキングと同じ熱量を生み出している」のです。
「食べているのに痩せる人」と「食べていないのに太る人」の違いの一つは、この「消化による熱産生」が正常に機能しているかどうかの差でもあります。
胃腸は「筋肉」でできている
なぜ、これほどのエネルギーが必要なのでしょうか? それは、胃や腸が「平滑筋(へいかつきん)」という筋肉の塊だからです。
内臓は、袋ではありません。 自ら力強く収縮と弛緩を繰り返し、内容物を揉みほぐしながら、先へ先へと送り出しています。
これを「蠕動(ぜんどう)運動」と言います。
想像してみてください。 固形の食べ物を、ドロドロの液体になるまですり潰し、数メートルにも及ぶ腸管を移動させる。 この作業には、確かな「筋力」が必要です。
私たちが食事を楽しんでいる間も、お腹の中では、内臓の筋肉が休みなく動き続け、消化という重労働をこなしているのです。
現代人は「内臓疲労」を起こしている
しかし、現代人の多くは、過酷な労働環境によって内臓の働きを弱らせてしまっています。 主な原因は以下の3つです。
1. 咀嚼不足による「物理的負担」
胃には「歯」がありません。本来、口の中でドロドロにすり潰すべきものを固形のまま飲み込むことは、胃の筋肉に対して「粉砕」という本来不要な重労働を強いることになります。
2. 頻繁な食事による「時間的負担」
消化には数時間かかります。前の処理が終わる前に次の食べ物を送り込むのは、休む間もなく工場を24時間稼働させるのと同じです。これでは筋肉は疲弊し、動きが止まります。
3. 超加工食品による「化学的負担」
これが最も深刻です。自然な食材は「消化酵素」を自ら持っていますが、加工食品は持っていません。内臓は自前の酵素と栄養を総動員して分解にあたるため、通常の何倍ものエネルギーを消耗します。
食後に襲ってくる「抗えない眠気」や「胃の重さ」。 あれは、内臓が処理能力の限界を迎え、脳や手足への血流を制限してでも、消化に全力を注がなければならない非常事態、すなわち「内臓疲労」のサインなのです。
「内臓力」を取り戻す2つの鉄則
では、どうすれば内臓の機能を正常に戻し、代謝を高めることができるのでしょうか。 必要なのは、特別なことではなく、本来のリズムを取り戻すことです。
1. 物理的負担を減らす(よく噛む)
内臓の負担を減らす最も確実な方法は、「よく噛むこと」です。
口の中で細かく砕いておけば、胃が収縮する回数は減り、消化液の浸透も早くなります。 「噛む」という行為は、胃腸に対する準備信号となり、消化システム全体をスムーズに起動させます。
2. 化学的負担を減らす (加工食品を避ける)
これが最も重要です。消化・代謝の助けとなる微量栄養素を含んだ「自然な食材(ホールフード)」を選んでください。加工されていない食材は、内臓にとって処理しやすい「良質な燃料」です。
3. 機能を回復させる(空腹を待つ)
内臓の筋肉も、休んでいる時に回復します。
「お腹がグーッ」と鳴った時。 それは、胃腸が空っぽになり、「モチリン」というホルモンを使って、残ったカスを掃除する「強収縮(クリーニング)」が起きている音です。
この音が鳴って初めて、内臓はリセットされ、次の食事を受け入れる準備が整います。
結論:脳の「欲求」ではなく、内臓の「声」を聞く
現代には、甘いスイーツやスナック菓子など、「脳」が本能的に喜ぶ食事が溢れています。 これらは、内臓の状態などお構いなしに、「もっと食べろ」と強烈な信号を送ってきます。
私たちはつい、この脳の欲求に従って、すでに疲れている胃腸に、さらなる食事を詰め込んでしまいがちです。 頭では「お昼だから」「美味しそうだから」と考えていても、身体は「もう受け入れられない」と拒否しているかもしれません。
だからこそ、主導権を「脳(思考)」から「身体(感覚)」へ返す必要があります。
食事の前に、一度だけ自分自身を感じてみてください。 「頭は食べたがっているけれど、胃腸は今、動ける状態か?」
もし胃が重かったり、お腹が空いていないなら、それは「今は休ませてほしい」という身体からの報告です。
脳の情報を一旦脇に置き、内臓の静かな声に耳を澄ませること。 そして、身体が「準備完了」の合図を出した時にだけ、感謝して食事を摂る。
そうやって「内臓優位」の関係を取り戻すことこそが、疲れた内臓を癒やし、本来の代謝を取り戻すための、最も確実なアプローチなのです。












