Ref. #進化医学 #進化的ミスマッチ #環境不適応 #報酬系回路

本日の問い
痩せたいと頭では願っているのに、なぜ身体はこれほどまでに「太りたがる」のか。その原因はあなたの性格や根性の問題だと思っていませんか?
こんな方へ
- 何度ダイエットに挑戦しても、食欲に負けてリバウンドしてしまう方。
- 「痩せる=我慢すること」という図式から抜け出せない方。
この記事の結論
- 生物学的に見れば、太りやすい体質は欠点ではなく、飢餓を生き抜くために最適化された「生存能力の高さ」の証明である。
- 人間の遺伝子は数万年単位でしか変化しないが、環境はここ数十年で激変したため、身体が追いつかない「進化的ミスマッチ」が起きている。
- 意思の力で本能と戦うのではなく、ミスマッチを起こしている「環境」と「習慣」を調整することだけが、根本的な解決策となる。
ダイエットを決意した翌日に、高カロリーな食事を摂ってしまう。 運動不足を自覚しているのに、動くことが億劫でたまらない。
多くの人は、こうした矛盾した行動を自身の人格や「意志の弱さ」のせいにします。しかし、生物学的な視点から見れば、その認識は誤りです。
あなたが太りやすいのは、個人の資質が劣っているからではありません。 むしろ、あなたの身体が「生物として極めて優秀であり、正常に機能しているから」です。
今回は、進化医学の視点から、現代人が抱える肥満という現象の「構造的な原因」を解き明かします。
38億年の記憶と「生存の条件」
私たちの身体には、生命誕生から38億年、人類誕生から数百万年の記憶が刻まれています。その歴史の99.9%は、「飢餓」との戦いでした。
食料が常に不足している過酷な環境下において、生き残り、子孫を残すことができたのは、以下の「才能」を持った個体だけでした。
- 執着心: 高カロリーな獲物(糖と脂)を見つけたら、限界まで胃に詰め込む。
- 貯蓄能力: 余ったエネルギーを、一滴も無駄にせず「脂肪」として蓄える。
- 省エネ性: 無駄なエネルギー消費を避けるため、極力動かずに温存する。
現代では「肥満の原因」として忌み嫌われるこれらの特徴こそが、かつては「最も優秀な生存戦略」でした。 脂肪とは、いつ訪れるか分からない飢餓という死のリスクから身を守るための、「命のバックアップ電源」です。
私たちは皆、氷河期や飢饉を生き延びた、脂肪を蓄える能力に長けた「優秀な生存者」の末裔なのです。
「進化的ミスマッチ」という構造エラー
問題は、私たちの身体の設計図(遺伝子)と、現代の環境との間に、決定的なズレが生じていることです。これを進化医学では「進化的ミスマッチ」と呼びます。
なぜ、私たちの身体は現代の飽食に適応できないのでしょうか。 それは、「自然は飛躍しない」という大原則があるからです。
生物が環境の変化に合わせて身体の構造を変えるには、突然変異と自然淘汰を繰り返し、何千、何万年という膨大な時間をかける必要があります。
- 身体の進化(数万年単位): 私たちの身体は、まだ狩猟採集時代のままです。
- 環境の変化(数十年単位): コンビニやファストフードが登場したのは、ここ50〜100年のことです。
私たちの身体は、依然として「獲物を求めて荒野を走り回る」仕様のままです。そこへ突然、動かなくても高カロリーな食事が24時間手に入るという、歴史上あり得なかった環境が与えられました。
生物としての進化のスピードが、文明の発展スピードに追いついていない。 肥満とは、個人の怠慢の結果ではなく、「旧石器時代の身体」が「現代環境」という急激な変化に対応できずに起こしているシステムエラーなのです。
脳をハッキングする「報酬系」の罠
さらに、このエラーを加速させるのが、脳にある「報酬系回路」です。 これは、生存に有利な行動(食事や生殖)をした際に「ドーパミン(快楽物質)」を放出し、その行動を強化・反復させるシステムです。
自然界には存在しなかった、糖質と脂質を人工的に組み合わせた加工食品(スナック菓子、ファストフードなど)は、この報酬系を強烈に刺激します。これを「超正常刺激」と呼びます。
脳の古い領域は、これを「生存に極めて有利な、またとない獲物だ!」と誤認します。その結果、理性を飛び越えて「もっと食べろ」「蓄えろ」という強力な指令を出します。
目の前のケーキに手が伸びるのは、意志が弱いからではありません。 脳のプログラムが正常に作動し、「生き延びるための最善手」として指令を出しているからです。この強力な本能に対し、個人の「意志」だけで対抗するのは、素手で軍隊に挑むようなものです。
結論:戦う相手は「自分」ではない
「太りやすい」という事実は、あなたが生物として正常な反応を示している証拠です。 そこに道徳的な良し悪しや、人格の優劣は存在しません。
ただ、「飢餓に備える身体」が、「飢餓のない環境」に置かれている。 それだけの物理的な現象です。
身体の進化を待つには、あと数万年はかかります。 だとするならば、私たちにできることは一つしかありません。
自身の性格を責めて精神を消耗させるのではなく、ミスマッチを起こしている「環境」と、無意識に繰り返している「習慣」を変えること。
身体の仕組み(ロジック)を理解し、意志の力を使わずに、環境の方を身体に合わせて調整していく。 ここからしか、本質的な身体作りは始まりません。












