Ref. #セトリングポイント理論 #視床下部 #レプチン #ホメオスタシス

本日の問い
カロリーを減らしているのに、なぜある時点から体重が落ちなくなり、やがて元に戻るのか?
こんな方へ
- 何度ダイエットに挑戦しても、リバウンドして元の体重に戻ってしまう方。
- リバウンドを自分の「意志の弱さ」や「努力不足」のせいだと考え、自己嫌悪に陥っている方。
この記事の結論
- 人間の脳(視床下部)には、その個体にとって最適な体重を維持しようとする基準値「セトリングポイント」が存在する。
- 現代人の肥満は、加工食品やストレスなどの環境要因により、脳内のセンサーが狂い、セトリングポイント自体が高く誤設定されている状態である。
「ダイエットを始めて最初は順調だったが、突然体重が動かなくなった」 「食事を戻した途端、以前よりも体重が増えてしまった」
多くの人が経験するこの現象は、個人の性格や努力とは一切関係がありません。 人体の基本機能である「ホメオスタシス(恒常性)」が、正常に作動した結果です。
私たちの身体には、体温や血糖値を一定に保つのと同様に、体重(エネルギー貯蔵量)を「ある一定の範囲」に保とうとする、強力な自動制御システムが備わっています。
これを生理学では「セトリングポイント(設定体重)」と呼びます。
この概念は決して新しいものではありません。 1953年に生理学者ケネディ(G.C. Kennedy)が「脳が脂肪量を監視している(脂肪定常説)」ことを発見し、70年代にキーシー(Richard E. Keesey)が代謝調整の仕組みを証明。そして1982年にベネットとガリン(Bennett & Gurin)が一般に広めた、半世紀以上の歴史を持つ科学的な定説です。
今日は、あなたのダイエットを阻んでいる(ように見える)、この生体システムの構造を解き明かします。
1. 脳による「体重維持システム」の構造
私たちの脳の深部にある「視床下部(ししょうかぶ)」が、体重調整の司令塔です。 視床下部は、体内のエネルギー状態を24時間監視し、体重をセトリングポイント(基準値)に合わせるようコントロールしています。
この調整は、主に以下の2つのルートで行われます。
- 食欲の調整(インプット): ホルモンバランスを変え、食べる量を無意識に増減させる。
- 代謝の調整(アウトプット): 基礎代謝や活動代謝を上げ下げし、消費エネルギー量を微調整する。
通常、食べ過ぎれば食欲が落ちて代謝が上がり、食べなければ食欲が湧いて代謝が下がります。 私たちの身体は、意識しなくても「いつもの体重(セトリングポイント)」に戻るようにプログラムされているのです。
2. ダイエットに対する「防御反応」
この精巧なシステムは、ダイエット(摂取カロリーの制限)に対してどう反応するでしょうか。
あなたが食事を減らし、脂肪が減少すると、脂肪細胞から分泌されるホルモン「レプチン」の量が低下します。 視床下部はこの変化を検知し、「セトリングポイントを下回った(危険状態)」と判断します。
すると、システムは直ちに「飢餓に対する防御モード」へと移行します。
- エネルギー消費の遮断: 体温を下げ、筋肉の分解を進め、徹底的に代謝を落としてエネルギーを節約する。
- エネルギー摂取の強制: 脳内物質を変化させ、強烈な空腹感や、高カロリー食への渇望を引き起こす。
これが「停滞期」であり、その後の「リバウンド」の正体です。 体重が落ちなくなるのは、体がサボっているのではなく、システムが「生命維持のための省エネ運転」に切り替わったためです。
この状態でダイエットを諦めて元の食事に戻すと、体は「次の飢餓」に備えて以前よりも効率よく脂肪を蓄えようとします。これがリバウンド後に体重が増えやすくなる生理学的な理由です。
3. なぜ「基準値」は上がってしまうのか
本来、人間のセトリングポイントは「太りすぎない適正な範囲」に設定されているはずです。 野生動物や狩猟採集民に肥満がいないのは、このシステムが正常に機能しているからです。
ではなぜ、現代人はセトリングポイントが「肥満側」にズレてしまうのでしょうか。 それは、現代特有の環境要因が脳のセンサーを狂わせているからです。
- 加工食品の摂取: 脳の報酬系を過剰に刺激し、満腹のサイン(レプチン)を無視させる「レプチン抵抗性」を引き起こす。
- 慢性的なストレス: コルチゾール値を高め、脳に「危機状態(脂肪が必要)」だと誤認させる。
- 概日リズムの乱れ: 睡眠不足や夜型生活がホルモンバランスを崩し、代謝機能を低下させる。
これらのノイズによって、視床下部は「今の脂肪量では足りない」と判断を誤り、セトリングポイントを本来よりも高い数値に書き換えてしまいます。
一度セトリングポイントが上がってしまうと、体はその高い体重を「正常」として守ろうとするため、痩せることが極めて困難になります。
まとめ:システムを正常化する
リバウンドの連鎖を断ち切るために必要なのは、無理なカロリー制限でシステムに抗うことではありません。 狂ってしまった「セトリングポイント(センサー)」を正常化することです。
脳が「飢餓の危険はない」「この環境は安全だ」と正しく認識できれば、セトリングポイントは自然と適正値まで下がっていきます。
- 加工食品を控え、自然な食材を選ぶ(ホルモン感受性の回復)
- 十分な睡眠とストレスケア(自律神経の安定)
これらは遠回りに見えますが、誤作動しているシステムを修理するための必須手順です。
システムが正常に戻れば、体は自ら「適正体重」を目指して調整を始めます。 食欲は自然に落ち着き、代謝は正常化する。 これが、生物としての機能に基づいた、最も無理のない身体調整のプロセスです。
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