なぜヒトは未完成で生まれるのか? 進化生物学が教える「ネオテニー」と脳の可塑性について [note047]

Library Note [Note-047]

本日の問い

なぜ、人間の赤ちゃんだけが、これほど無力な状態で生まれてくるのか?進化生物学が教えてくれるヒトらしい生き方とは?

こんな方へ

  • 年齢を理由に、新しい運動や学習を諦めかけている方。
  • 自分の身体が固まってしまい、もう手遅れだと感じている方。

この記事の結論

  • 人間は、他の動物と違い「未熟な状態で生まれる(ネオテニー)」という生存戦略を選んだ。
  • あえて完成させずに生まれることで、死ぬまで環境に合わせて「書き換え(アップデート)」し続けられる余白を残している。
  • 脳と身体の「可塑性(変わる力)」に、賞味期限はない。

1. なぜ、人間の赤ちゃんだけが「立てない」のか

サバンナの草食動物(馬や鹿など)は、生まれて数十分で立ち上がり、走ることができます。彼らは、厳しい自然界で生き抜くために、「完成品」として生まれてくる必要があります。

一方で、人間の赤ちゃんはどうでしょうか。 立ち上がるまでに1年かかり、親の世話なしでは1日たりとも生きられません。生物として見れば、圧倒的に「未完成」です。

しかし、この「弱さ」こそが、人間が地球上で最も繁栄した最大の理由なのです。

これを生物学用語で「ネオテニー(幼形成熟)」と呼びます。 私たちは、あえて「未完成」のまま生まれることで、後天的にどんな環境にも適応できる「学習の余地」を確保したのです。

【用語解説】ネオテニー(幼形成熟)とは何か?

ここで少し、聞き慣れない「ネオテニー」という言葉について整理しておきましょう。

ネオテニー(Neoteny)とは、直訳すると「幼形成熟」。 本来であれば成長とともに捨て去るはずの「子供の特徴(幼生)」を残したまま、大人(性成熟)になる現象のことを指します。

  • わかりやすい例:ウーパールーパー 彼らはサンショウウオの仲間ですが、本来カエルになるために失うはずの「エラ」を持ったまま、水の中で一生を過ごし、子供も作ります。これがネオテニーです。

人間の場合 

人間は、サルの胎児(赤ちゃん)の特徴を保ったまま大人になったと言われています。

  • 体毛が薄い(サルの胎児は毛がない)
  • 頭(脳)が大きいまま(顎が突出しない)
  • 好奇心が消えない(動物は大人になると遊ばないが、人間は死ぬまで遊ぶ)

つまりネオテニーとは、単なる未熟さではなく、「子供時代(成長・学習できる期間)を、一生続くように引き伸ばした進化の魔法」と言えるのです。

2. 「未完成」とは、変わり続けられるということ

馬や鹿は、生まれた瞬間に「走るプログラム」が完成しています。しかし、その代償として、そこから大きく「別の動き」を習得することは困難です。

人間は逆です。 生まれた時点では何もできませんが、その分、脳や神経系は「柔らかい粘土(可塑性)」のような状態です。

  • 環境に合わせて、身体の使い方を覚える。
  • 道具の使い方を学ぶ。
  • 複雑な言語を習得する。

私たちは、母親の胎内で身体を完成させるのではなく、「生まれた後の世界」に合わせて、自分の脳と身体をデザインし続けるという進化の道を選んだのです。

つまり、人間にとっての「自然な状態」とは、固定されることではなく、「死ぬまで変化し続けること」なのです。

3. 「もう歳だから」は、進化の否定である

「もう歳だから、身体は変わらない」 「今さら新しいことは覚えられない」

そう感じる瞬間があるかもしれません。しかし、それは進化の事実に反します。 私たちの脳と神経には、「可塑性(かそせい)」という性質が備わっています。これは、いくつになっても、新しい刺激や学習によって神経回路がつなぎ変わり、身体地図が書き換わる能力のことです。

あなたが「未完成」であることは、欠陥ではありません。 それは、明日、今日とは違う自分になれるという「可能性の証明」です。

70代でピアノを始める人もいれば、80代で筋肉を成長させる人もいます。 彼らは特別な才能を持っているのではなく、人間という種が本来持っている「ネオテニー(変わる力)」を正しく使っているに過ぎないのです。

まとめ:永遠の「未完成」を楽しもう

私たちは、完成品として出荷されたロボットではありません。 最期の日まで、環境と対話し、自分自身をアップデートし続ける「学習する生命体」です。

身体が硬いなら、また柔らかくなる方法を学べばいい。 動かない場所があるなら、新しい回路を繋げばいい。

「自分の不十分さ」を嘆く必要はありません。あなたの中にある「これからも変わり続けられる可能性」こそ人間(ヒト)であることの証なのですから。

この記事を書いた人

トレーナーAzuma

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