あなたの身体は、38億年の「地層」である [note042]

Library Note [Note-042]

本日の問い

緊張するとなぜ勝手に手汗をかく?涙はなんでしょっぱい?私たちのカラダに隠された太古の痕跡とは?

こんな方へ

自分の身体に隠された知的好奇心を刺激する「面白さ」を発見したい方

この記事の結論

あなたの身体は、「ゼロから設計された新品」ではない、連続する生命の記憶である。

鏡に映る自分の姿を見る時、私たちはつい「現在のコンディション」ばかりを目で追ってしまいます。 肌の調子、体重の増減、筋肉のつき方。

しかし、私が最初にお伝えしたいのは、そうした表面的な情報の奥にある、圧倒的な「時間の堆積」についてです。

あなたの身体は、あなたがオギャーと生まれた時に、ゼロから設計されたものではありません。 38億年前、最初の生命が地球に誕生して以来、途方もない時間をかけて試行錯誤が繰り返され、継ぎ足されてきた「生命のクロニクル(年代記)」そのものなのです。

今回は、難しい細胞の話は抜きにして、「今すぐ自分の身体で確かめられる」不思議な痕跡から、あなたの内側にある地層を掘り起こしてみましょう。

1. 涙と汗は、内なる「海」の記憶

私たちの身体に刻まれた、最も古くて確かな記憶。 それは「海」です。

悲しい時に流れる涙を舐めると、しょっぱい味がします。 暑い時に流れる汗も、やはりしょっぱい。 なぜ、私たちの身体からは「塩水」が出てくるのでしょうか? 真水でも良かったはずです。

それは、私たちの遠い祖先が海で生まれ、海で育ったからです。

陸に上がるための発明

約38億年前、生命は海の中で誕生しました。 やがて進化の過程で「陸に上がろう」と決意した時、そこには致命的な問題がありました。陸には、細胞を生かすための「海水」がありません。

そこで私たちの祖先は、以下の画期的なシステムを発明しました。

「海を、皮膚という袋の中に閉じ込めて持ち運ぶ」

これこそが、私たちの体液です。

私たちの体液のミネラルバランス(ナトリウムやカリウムの比率)は、太古の海水の成分と驚くほど似ています。 私たちは今も、チャプチャプと音を立てる「歩く海」として、乾いたアスファルトの上を歩いているのです。

涙がしょっぱいのは、あなたが海からやってきた何よりの証拠なのです。

2. 鳥肌と手汗は、森の記憶

次に、もう少し時代を進めてみましょう。 ふとした瞬間に起こる「謎の反応」にも、実は明確な歴史的理由があります。

役に立たない「鳥肌」の正体

寒い時や、怖い映画を見た時、肌にブツブツと「鳥肌」が立ちますよね。 現代の私たちにとって、鳥肌が立ったところで寒さは防げないし、敵も撃退できません。一見すると無意味な機能です。

しかし、もし私たちが「毛皮」を持っていたとしたらどうでしょうか?

鳥肌とは、毛根にある小さな筋肉(立毛筋)が収縮して、毛を逆立てる現象です。 全身が毛で覆われていた時代には、この反応には大きな意味がありました。

  • 保温効果: 毛を逆立てて空気の層を作る。
  • 威嚇効果: 身体を大きく見せて敵を遠ざける。

猫が怒った時に毛を逆立てるのと同じです。 私たちは毛皮を失って久ししいですが、「寒い!」「怖い!」と感じた瞬間に、身体は数百万年前の記憶に従って、必死に(ないはずの)毛を立てようとしているのです。

そう思うと、鳥肌ひとつすら、健気で愛おしい機能に思えてきませんか?

手のひらにだけ汗を握る理由

大事なプレゼンの前や、高い所に立った時。 全身はそうでもないのに、手のひらと足の裏だけじっとりと汗をかきませんか?

これも、森で暮らしていた時代の名残です。 敵に襲われそうになったり、高い木の上でバランスを取らなければならない時、乾いた手足では滑ってしまいます。

そこで、「瞬時に湿り気を出してグリップ力を高める(滑り止めにする)」必要があったのです。

現代のオフィスで滑り止めは必要ありませんが、脳が「緊張(ピンチ)だ!」と判断した瞬間、身体は忠実に「木から落ちないための準備」を整えてくれているのです。

3. 手首に残る「木登り」の痕跡

ここで一つ、実験をしてみましょう。 あなたの手首に、進化の証拠が残っているかどうかのチェックです。

【Check】 手首を見てみよう

  1. 片方の手のひらを上に向けます。
  2. 親指と小指の先をくっつけてください。
  3. そのまま手首を少し内側に曲げてください。

いかがでしょうか? 手首の真ん中に、ピンと浮き出る「一本の筋(すじ)」が見えますか?

消えゆく筋肉「長掌筋」

この筋は「長掌筋(ちょうしょうきん)」と呼ばれる筋肉の腱です。

これは、かつて私たちの祖先が木の上で生活していた時、枝にぶら下がったり、木を登ったりするために使っていた重要な筋肉でした。 しかし、二足歩行を始め、木から降りて生活するようになった人間には、もうそれほど重要ではありません。

そのため、進化の過程で徐々に退化しており、実は現代人の数%(日本人の場合3〜5%程度)は、生まれつきこの筋肉を持っていません。 (もし浮き出なかったとしても、それはあなたが「進化の最先端」にいる証拠ですので安心してくださいね)

4. 尻尾の名残と、エラ呼吸のリズム

さらに身体を触ってみましょう。 お尻の割れ目の少し上、背骨の終わりの部分を触ると、硬い骨がありますね。 「尾骨(びこつ)」です。

これは文字通り、かつて私たちに「尻尾」があった名残です。 お母さんのお腹の中にいる胎児の初期段階では、実ははっきりとした尻尾があるのですが、成長とともに吸収され、最後にこの尾骨だけが残ります。

また、誰もが経験する「しゃっくり」。 これは呼吸に関わる横隔膜の痙攣ですが、この独特なリズムは、以下の呼吸と非常によく似ていると言われています。

  • エラ呼吸(オタマジャクシや肺魚などが水中で行うもの)

水陸両生の時代から肺呼吸へと切り替わる過程で残された、古いプログラムの誤作動なのかもしれません。

結論:あなたは「歴史」そのものである

こうして見ていくと、あなたの身体は「あなた個人のもの」であると同時に、38億年の歴史博物館であることがわかります。

単細胞生物から始まり、魚類、両生類、哺乳類、そして霊長類へ。 この気の遠くなるような時間の流れの中で、たったの一度も「死」によってリレーが途切れることはありませんでした。

  • 氷河期の寒さ
  • 巨大隕石の衝突
  • 疫病、飢餓

あなたの祖先たちは、そのすべてを生き延び、命を繋いできました。

涙がしょっぱいのも、緊張して手汗をかくのも、手首に筋が浮き出るのも。 すべては、あなたの身体が正常に、そして忠実に、太古からの教えを守っている証拠です。

自分の身体を、意のままに操れる「道具」だと思っていませんでしたか? あるいは、自分の存在をちっぽけなものだと感じていませんでしたか?

それは違います。 あなたは、ただそこにいるだけで、38億年の奇跡が積み重なった壮大なクロニクルそのものなのです。

この記事を書いた人

トレーナーAzuma

フィットネスの知見をもとに、動きやすい体づくりをサポート。「日常を軽やかに動く体作り」を目指して情報発信中。

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