なぜ、私たちは一度お菓子に手を伸ばすと、袋が空になるまで止まらなくなるのでしょうか? なぜ、お腹がいっぱいでもデザートは食べられてしまうのでしょうか?
多くの肥満研究において、その最大の原因として挙げられるのが「食事報酬(フード・リワード)」という概念です。
今回は、私たちの食欲をコントロールしているこの「食事報酬」のメカニズムについて、人間の進化と脳の働きの観点から紐解いていきます。
脳にとっての「報酬」とは何か
「食事報酬」とは、簡単に言えば「特定の食事をした時に、脳が感じる快楽」のことです。
私たちの脳は、ある条件を満たした食べ物を摂取すると、強烈な快楽物質を放出し、「これは素晴らしい!もっと摂取しろ!」と指令を出します。この指令が強ければ強いほど、その食品は「報酬レベルが高い」と判断されます。
では、脳は何に対して「報酬」を感じるのか。その条件は明確です。
- 甘味、脂肪、塩分
- でんぷん、うま味(グルタミン酸など)
- 高いカロリー密度(一口あたりのカロリーが高い)
つまり、現代のジャンクフードやスイーツのような「高カロリーで味が濃いもの」ほど、脳にとっては最強の報酬となります。
200万年前の生存戦略
なぜ脳は、太りやすいものばかり欲しがるようにできているのでしょうか? それは、人間の脳の基本設計が200万年前の狩猟採集時代から変わっていないからです。
食料が乏しい古代の環境では、「高カロリー・高脂肪」な食事にありつけることは、そのまま「生存」を意味しました。 そのため、私たちの脳は進化の過程で「カロリーが高いものを見つけたら、快楽を感じて、できるだけ腹に詰め込む」というプログラムを強固に作り上げました。
苦味(=毒の可能性)を避け、甘味や脂肪(=エネルギー)を貪欲に求める。 このかつての「優秀な生存戦略」が、飽食の現代においては「肥満のスイッチ」として機能してしまっているのです。
「セットポイント」の故障
本来、人間の体には「セットポイント」と呼ばれる体重調整機能が備わっています。
これは、体脂肪が増えすぎないように食欲を抑制し、体重を一定に保とうとする「体内センサー」のようなものです。通常であれば、ある程度食べれば「もう十分」と脳がブレーキをかけます。
しかし、食事報酬の高い食品(加工食品や高糖質・高脂肪食)は、このセンサーを狂わせます。
脳が感じる快楽があまりにも強烈なため、本来働くはずの「満腹シグナル」がかき消され、ブレーキが効かないまま食べ続けてしまうのです。これが、現代人が太ってしまう最大のメカニズムと言われています。
快楽の追求はエスカレートする
さらに厄介なのが、この報酬システムには「慣れ」が生じるという点です。
刺激の強い食事を続けていると、脳はそのレベルの快楽に慣れてしまい、より強い刺激(=より高いカロリー、より濃い味)を求めるようになります。
ある研究では、食事報酬の高い食事を続けると、脳の反応がドラッグへの依存反応と似たグラフを描くことが示されています。 「もっと食べたい」という欲求は、単なる空腹感ではなく、脳がより強い報酬を求めてエスカレートしている状態とも言えるのです。
まとめ:本能と環境のミスマッチ
「食事報酬」とは、脳が生存のために作り上げた強力な快楽システムです。
- 脳は「高カロリー・高脂肪」を生存に有利な報酬とみなす。
- 報酬レベルの高い食事は、本来の食欲ブレーキ(セットポイント)を破壊する。
- 結果、必要以上のカロリーを摂取し続けてしまう。
私たちが食べ過ぎてしまう背景には、意思の強弱以前に、このような「原始の脳」と「現代の食環境」のミスマッチが存在しています。
このメカニズムを理解することが、乱れた食欲をコントロールするための第一歩となるはずです。













