『36の基本動作』
このコラムをお読みの方でこの言葉をご存知の方はどれくらいいらっしゃいますか?
育児に関わられている方なら、もしかしたら聞いたことがあるのではないかと思います。
『36の基本動作』とは、発達発育学者の中村和彦氏が提唱した運動の概念で、子供が成長していく過程で学習する動きを大きく36のパターンにカテゴライズしたものです。
(引用)山梨学院教授 中村和彦著:「運動神経が良くなる本」
まわる、おきる、たつ、はう、もつ、おす、などこれらの動きが基本となって人間の複雑な動きは支えられています。
昨今では大人や子供を問わずカラダを動かす機会が少なくなり、運動多様性の低下が問題となっていますが実際のところどうでしょう?これらの動きのうち、普段の生活の中で登場する動きはいくつありますか?
色々と動いているようでいても「物を持つ、座る、立つ、歩く」くらいなのではないでしょうか。
私たちが日常でふれている動きのパターンというのは意外と少ないものです。
そもそも私たちは、この36種類の動きを、幼児期の発育発達過程で、自然とふれあい、カラダを動かす過程を通じて経験していきます。
そうする中で自分の身体や動きに対する感覚を高め、自分の意図するままに身体を動かす術を覚えていくのです。
ところが大人になるにつれ段々と日常で身体を動かす機会が少なくなり、気づけば自宅と会社の行き帰りの中で『起きる・歩く・座る・歩く・寝る』が繰り返される日々。
そんな生活を送る間に、運動の多様性はどんどんと失われていきます。
ここでひとつ知っておいていただきたいのは、『日常生活でふれる動きによって私たちの運動感覚は規定されてしまう』ということです。
普段からパターン化された動きのみの生活を行っていたのでは、その人が持っている動きの引き出しもそれだけに留まってしまいます。
私自身のパーソナルセッションでも、準備運動の時に「自由に、思いつく限りにカラダを動かしてみてください」なんてお伝えする事があるのですが、そうすると「しゃがんで立ち上がる、足を上下に動かす、腕を上下させる」など3つくらいの動きに限定されてしまっていることも少なくありません。
こうして動かなくなったカラダの状態が、様々な運動機能障害や慢性疼痛などの不定愁訴を引き起こすのです。
今では至る所にジムも増えてフィットネスも大分身近なものとなりましたが、本来的にはこの様な運動多様性に乏しい生活からの脱却を目指すことこそが大切なのでしょう。
ではここで簡単にまとめを。
年齢とともに思うようにカラダが動かなくなってしまうのは、老化現象だけではなく動きの経験不足が原因です。
子供の頃の様に、さまざまな動きにふれ、そして動きを自らのカラダで経験する事によって、動きの感覚は年齢に関わらず向上していくものです。
大切なのは日常に多様な動きの要素を取り入れる事。
確かに大人になると子供の様にカラダを動かす機会は少なくなります。
それでも天気が良ければ外に出てウォーキングしてみたり、公園で思うがままにカラダを動してみたり、週末は野外のアクティビティに参加してみたり。そうして心を外に向けていく事こそが、心の若さを保つ事にもつながるのではないでしょうか。
…と、そんなひとつのご提案でした。
(追記)
自分の身体が思うまま自由に動くという実感は、活き活きとした心のありようにもつながっていきます。
反対に、自分のカラダが思うように動かないような状況では心もネガティブに傾いてしまうものです。
私たちが常日頃からウェルビーイングな心の状態を保つためにも、運動多様性というテーマと向き合きあうことは非常に大切なのだと感じる今日この頃です。