Ref. #マーケティング #グレーゾーン #身体感覚 #セルフケア

本日の問い
健康器具や美容アイテムは、なぜ私たちの心に「何となく効きそう」と感じさせる力を持っているのでしょうか。
こんな方へ
- SNSや広告の美容健康器具をついつい買ってしまう方
- 次々と出てくる健康・美容商品がついつい気になってしまう方
この記事の結論
- 人は複雑な身体をそのまま理解するのが苦手なため、「痛い=効いている」といった分かりやすい因果関係の物語に惹かれやすい。
- 大切なのは「何を使うか」という現象ではなく、「なぜ今その状態になっているのか」という背景にある身体そのものに目を向けることである。
なぜ、新しい健康器具は次々と現れるのか
スマートフォンを開けば、さまざまな広告が目に入ります。
「これを使えばもっと健康になれるかもしれない」
「今より快適に過ごせるかもしれない」
「理想の自分に近づけるかもしれない」
魅力的な商品紹介に、つい目を留めてしまうことはないでしょうか。
では、なぜ私たちは「変われるかもしれない」という期待に惹かれるのでしょうか。
今回は、最近私が広告で目にすることのあったシャクティマットという健康器具を題材にしながら、少し考えてみたいと思います。
トゲトゲのマットが与える印象
さっそく。皆さん、「シャクティマット」ってご存知ですか? ご存知ない方は、まずこちらをご覧ください。

最近よく広告で見かけますし、一度は目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。「痛そうだけど、その分だけ効果がありそう」という強烈な印象を抱きがちですよね。
実は1970年代の「ソ連」がルーツ
ただ、このマットは決して最新の発明ではありません。インドの修行僧が針のベッドに横たわるような神秘的な伝統を連想させますが、それはどちらかと言えば魅力的なブランドストーリーです。
実のところ、直接的なルーツは1970年代の旧ソ連で開発された『クズネツォフ・アプリケーター』という指圧マットにまでたどり着きます。かつてソ連で流行した実用的な健康器具を、現代的なウェルネス商品として再解釈したもの。そう捉える方が、歴史的には正確だと言えます。製品の形自体は、当時からほとんど変わっていません。
繰り返される「ブーム」の裏側
こうした健康器具は本当に枚挙に暇がありません。なぜ次々と現れては広がり、また新しいものに取って代わられていくのか。この繰り返しの中に、現在の健康市場の特徴が現れているように感じます。
医療の外側にある広大なグレーゾーン
正解のない領域だからこそ、選択肢が生まれる
肺炎や骨折のような病気や怪我であれば、医療によって診断や治療の基準がある程度定まっています。
しかし現実には、肩こり、慢性的な疲労、睡眠の悩み、ストレス、美容、アンチエイジングなど、医療だけでは割り切れない悩みの方がはるかに多く存在します。
白とも黒とも言い切れない、広いグレーゾーン。明確な正解がないからこそ、様々な健康法や健康器具が生まれる土壌になります。
医療は「事実」、その外側は「物語」が判断基準
医療の世界で広告が厳しく制限されるのは、生命や健康に直接関わるからです。不適切な情報の拡散による社会的被害を防ぐため、客観的な事実しか伝えてはならず、法律で厳しく管理されています。
しかし、一歩医療の外側(グレーゾーン)に出れば、ルールは変わります。厳格な法律の網がかからないため、「何が正しいか」以上に「どう伝えるか」というマーケティングの力が強烈に効いてくる。それが, 人々の消費行動とダイレクトに結びついていくのです。
グレーゾーンほど、マーケティングの影響を受けやすい
感情に直接火がつく理由
マーケティングには「人は感情で買い、論理で正当化する」という言葉があります。これが健康・美容の領域で特に当てはまるのは、身体や健康というテーマが、人の感情と直結しやすいからです。
「疲れを取りたい」「老けたくない」「もっと動ける体になりたい」 こうした願望は、日々の生活や自己イメージと深く結びついています。だからこそ共感を得やすく、感情に火がつきやすいのです。
「スペック」で測れないからこそ、物語が売れる
もう一つ、広告やマーケティングの世界には、「人は機能ではなく物語を買う」という鉄則があります。
特に美容や健康器具は、デジタルガジェットのように「カメラの画素数」といった画一的な数値(仕様)で効果を評価するのが難しいジャンルです。
分かりやすい仕様で測れないからこそ、スペックの代わりに「物語」が購買に直結します。そしてこれは、「誰が使っているか」という体験ベースで拡散されるSNSと抜群に相性が良いのです。
「あの憧れの人が使っている」という事実がそのままブランドストーリーになり、ブランドが作られていく。
たとえばファッションの世界で、エルメスやヴィトン、ディオール、シャネルといったハイブランドが「誰を広告に起用するか」にきわめて神経を使うのも、まさにこの物語のためです。私たちは、服の素材(機能)ではなく、憧れの人が身につけているというストーリーを購入しているのです。
人はなぜ「効きそう」と感じるのか
ここでシャクティマットに話を戻してみます。
あの無数の突起を見た時、多くの人はまず強い刺激を想像します。痛そう。でも何か起きそう。この感覚が生まれるのは、見た目が「わかりやすいストーリー」になっているからです。
実際の身体は非常に複雑です。しかし人間は、複雑なものをそのまま理解するのが苦手です。そのため、
- 「痛い」 だから 「効いている」
- 「刺激がある」 だから 「変化が起きている」
- 「赤くなった」 だから 「身体が反応している」
といった分かりやすい因果関係を、自然と作り上げてしまいます。
美容の世界における「ターンオーバー」の話や、「筋肉痛は成長の証」という言葉も、その延長線上にあります。部分的には正しい。しかし実際の身体は、それほど単純ではありません。
シャクティマットが売っているのは、本質的にはマットではなく物語
シャクティマットを見ていて感じるのは、売られているのは単なる健康器具ではないということです。
そこには、セルフケア、リラックス、自分を整える時間、忙しい毎日からの解放、といった物語があります。マットを買うことで、その物語の登場人物になれる。これは現代の健康商品に広く共通する構造です。「ライフスタイルを売る」と言い換えてもいいかもしれません。
その物語に惹かれているのか、それとも効果そのものを評価しているのか。この二つを分けて考えてみることは、健康情報を読み解く上で重要な視点だと思います。
本当に目を向けるべきこと
身体の状態を変える上で重要なのは、「何を使うか」よりも「なぜ今その状態になっているのか」です。
疲労があるなら、なぜ疲労が蓄積しているのか。肩こりがあるなら、なぜ負担が続いているのか。睡眠の質が悪いなら、なぜそうなっているのか。
原因に目を向けずに現象だけを追いかけていると、次々と新しい健康法や健康器具を探し続けることになります。シャクティマットを見ていて、改めて考えたのはそういうことでした。
「これが効くのか」を考える前に、「なぜ今の状態になったのか」を問い直してみる。
健康情報や健康器具が溢れる時代だからこそ、目の前の方法だけでなく、その背景にある身体そのものに目を向けることが大切です。
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